『抽出(ペーパードリップ)』のこまごましたことをまとめました。
『美味しいコーヒーの入れ方(ペーパードリップ編)』と合わせてどうぞ。
目次
コーヒーあるある
一般的にコーヒーの常識と認識されているものって、実は間違っていることが多いんです。
でも『広く知られている=正しい』ってわけじゃないのは、なんにでも言えることですよね。よくあるコーヒーの誤解の中でも一番知られているのが、『美味しいコーヒーの入れ方(ペーパードリップ編)』で解説した『蒸らし』かなとは思いますが、他にもたくさんあります。ひとつずつ解説していきましょう。
熱いお湯で淹れると、雑味やえぐみが出てしまう・・・△
もし入れたコーヒーを飲んで雑味やえぐみを強く感じたら。
それは元々そういうコーヒー豆だというだけのことです。良いコーヒー豆であれば雑味やえぐみの成分がすごく少ないので、グラグラに沸いたお湯で淹れてもほとんど気になりません。むしろ、ぬるいお湯で入れてしまうと良い成分も抽出されなくて、もったいない。低くても90℃以上、とにかく熱いお湯で入れてください。99℃でもOKです。お湯を沸かしたポットで、沸いた直後にそのまま入れても大丈夫ですし、やかん等で沸かしたお湯をドリップポットに移して使っても。
わざわざ温度を測る必要はありませんが、お湯をドリップポットに移す場合は8分目くらいまで入れてくださいね。移す量が少ないと90℃を下回ってしまうこともあるので、要注意です。
抽出中に粉の上に見える泡はアク・・・×
粉にお湯を注ぐと表面に見える泡。
あれはアクでもなんでもないので気にしなくて大丈夫です。試しに指ですくって舐めてみてください。そんな味、しないはず。ちゃんと成分分析をした結果、アクと言えるような成分は含まれていないことも分かっています。
最後の一滴まで入れると雑味が入る・・・×
これも良く聞きますよね。全然気にしなくて大丈夫です。
実際にやってもらえば分かりますが、最後の一滴が入ってもなにも変わりません。もし最後の一滴が入ると雑味を感じるようになるんなら、その一滴にむちゃくちゃ雑味が凝縮してるはずです。それだけ口に含んでみても…うん、雑味は感じませんね。
焙煎や抽出でおいしくなる・・・×
焙煎で出来ることは、素材である生豆の良さを最大限引き出すこと。プラスにはできません。抽出もまったく同じ。
どちらも重要な工程ですが、素材以上のおいしさにはできません。ものすごくざっくり言うと、100点のものを100%引き出せても、100点にしかならない。105点や110点にすることはできないし、元が50点のものはどうしたって50点にしかなりません。なので良いコーヒー豆を手に入れることが何よりも大事です。
ちなみに良いコーヒー豆を抽出で台無しにすることは難しいですが、焙煎では簡単に台無しにすることができます。素材である生豆が良いだけでなく、適切に焙煎されたものを選ぶことが大切です。
冷めたら美味しくなくなる・・・△
良いコーヒー豆であれば、冷めても美味しいですし、むしろぬるくなったくらいの方が美味しく感じられるはず。
お茶や味噌汁なんかも、熱すぎると味がよく分かりませんよね。もし冷めて美味しくなくなったとすれば、熱いうちは味がごまかせていただけのこと。劣化したわけではありません。
良くないコーヒー豆の淹れ方
粉の量:10~12g
抽出時間:1~2分
お湯の温度:83度
こういう数字、目にしたことがあるかもしれません。これで淹れると出来上がりのコーヒーは薄くなります。薄くすれば色々なアラを隠せるので、良くないコーヒーをごまかして飲むには適した入れ方です。『良いコーヒー』を入れるのには適していません。
ステアする・・・×
ステアって聞いたことありますか?
ペーパードリップの一番最初、粉にお湯を注いですぐに、スプーンで混ぜるやり方です。これをするとどうなるかと言うと、コーヒーの粉からガスが抜けて目詰まりして、お湯の抜けが悪くなります。よく、浅煎りのコーヒーを入れる時に見かけます。「浅煎り特有の強い酸味が穏やかになって飲みやすくなる」なんて聞きますけど、それって単純に成分が出てないだけでは…。
粉がお湯に浸かった状態だと抽出がされ難くなるのは、淹れ方の記事で解説した通り。わざわざお湯の抜けが良いドリッパーを使ってお湯の抜けにくい状態を作るんなら、初めから抜けが悪いドリッパーを使えば良いのになぁ、と思います。
蒸らしのお湯は何ccで何秒待つか
そもそも蒸らしなんてない、ってことは記事に書いた通りですが、こんな情報もわりと見聞きします。そんなに厳密に決めなくて大丈夫だし、決めてしまうと逆にむずかしく感じませんか?
例えば「最初に20cc注いで20秒待つ」ってやり方があったとして、勢い余って60cc注いでしまった。そして薄いコーヒーがジャーッと落ちてきた。「あぁ、失敗しちゃった」ってなりますよね。実際は全然失敗じゃないんですよ。最初注ぎすぎてしまったなら、粉にお湯が染み込むのを待てばいいだけ。つまりお湯を注がなければいいんです。全体に行きわたるくらい、十分な量は注がれているわけなんで、何もしないで放っておけば染み込んでいきます。
全体に染み込んだのを確認したら、いつものように抽出時間を守って入れれば、結果辻褄は合うので、抽出に失敗なんてほぼほぼないと思ってください。
粉の荒さで味わいが調整できる・・・×
粉の粗さで調整するのは『お湯の抜けるスピード』です。
粉が細か過ぎると目詰まりしてお湯が抜けて行きませんし、逆に粗すぎれば抜けが良すぎて成分が抽出されません。粗さを変えた結果味が変わるというのは、成分が適切に抽出されていないだけと考えています。粉の粗さについては言葉で説明できないので、MUIで豆を購入された方には、挽き目のサンプルをお渡ししています。
ちなみに、焙煎してから日が経つにつれて、挽きたてでも、お湯を注いだときのふくらみが弱くなるので、お湯の抜け悪くなります。その場合はすこし粗めに挽くことで抜けがよくなって、成分が適切に抽出されます。
抽出の前にペーパーを湯通しする・・・×
『紙のにおい』を消すために、抽出の前に湯通しする。
アメリカから輸入された『作法』だと思うんですが、全く不要です。だってペーパーのにおいなんてしませんよね。多少したとしてもコーヒーの香りで完全に隠れてしまいますし、もしにおう様なら別のペーパーを買いましょう。
あまり知られていませんが、2007年くらいまで、アメリカではペーパードリップの評価がむちゃくちゃ低かったんです。低いもんだから、でっかい濾紙に大量の粉を入れて、バケツでザバーッとお湯を注いだり。
と、それは良いんですが低い理由のひとつに『ペーパーがくさいから』というものがありました。ぼくも実物のにおいを嗅いだことがありますど、アメリカのペーパーは確かにくさかった…。なので湯通しをしていたんですが、ハリオのV60というドリッパーがアメリカでも販売されるようになって、ペーパードリップの評価がガラッと変わりました。変わったんだけど湯通しという『作法』だけが残ってしまったということです。
日本のペーパーはにおわないので安心してください。試しに湯通ししたものとしていないもので比べてみてください。違いは感じないと思いますよ。
コーヒーは焙煎したてが一番美味しい・・・△
適切に焙煎されていないコーヒーならそうなんですが、適切に焙煎されたコーヒーの場合はそうじゃないんです。
常温で保存すると、2~3週間かけてむしろおいしくなっていきます。この事実が驚くほど知られていません。
粉に挽いたものを購入した場合は劣化するだけなので冷凍保存する必要がありますが、適切に焙煎されたコーヒー豆を手に入れたなら「傷む前に早く飲み切ろう」じゃなくて「飲み切ってしまったら美味しさのピークを楽しめないから取っておこう」くらいのスタンスの方が、むしろ美味しいコーヒーを楽しめます。
3週間経って美味しさがピークになったコーヒーは、その後にすぐに劣化する、なんてことはなくて、そこから半月以上良い状態がキープできます。なので適切に焙煎されたコーヒー豆を買ってしまえば劣化の心配はしなくて大丈夫です。
実際MUIの常連さんで、焙煎したてを欲しがる方って全くいないんですよ。逆に、「飲み頃になったコーヒー豆ある?」って言われることはあります。飲み切る2~3週間前にコーヒー豆を買いに来てくれる方や、1ヶ月~1カ月半くらいで飲み切る量を買って、味の変化を楽しむなんて方も多いです。
ほんとただ置いておくだけでおいしくなるので、全く手間がかからず、同じ価格でさらに美味しいコーヒーが楽しめるわけなんでお得です。めちゃくちゃ味が変わるのでびっくりすると思います。
繰り返しになりますが粉の場合は劣化するだけ。美味しくなることは無いので、冷凍保存して早めに飲み切ってくださいね。
焙煎後の酸化
「焙煎直後から酸化がはじまる」なんて言われますが、コーヒーは酸化しやすい食品ではありません。
コーヒーにはポリフェノールが含まれていること、炭酸ガスがバリアの役割をしていることがその理由と言われています。適切に焙煎されたコーヒー豆であれば、常温で保存して3ヶ月くらい経ってやっと酸化が「はじまる」ことが分析の結果分かっています。
古くなったコーヒー豆が大量に流通している事や、焙煎が適切でなく劣化が早いものが多いため、そう言った誤解が生まれたのかなと感じています。
コーヒー豆の油
コーヒー豆を常温に置いておくと表面に油が浮いて、つやつやになる。これは劣化のサインでも何でもないので、気にする必要はありません。
ちなみに焙煎の深いものや、気温が高いと油が浮くまでが早いです。
コーヒーでお腹を壊したり頭が痛くなったり
コーヒーを飲むとお腹を壊したり、頭が痛くなったことがある。だから飲めない。
そういう方、周りにいませんか?
「カフェインのせい」、と考えている方がとても多いですが、コーヒー以外でカフェインをとってもそうはならないと皆さん言うわけです。ってことはカフェインのせいではありません。理由は単純で、傷んだコーヒーのせいなんです。
あとは極端に焙煎が浅いものを飲んでそうなる方も多いようです。焙煎が浅すぎると、生焼けのパンや焼菓子のようなものなので、体に負担がかかって体の不調を感じてしまうわけです。
時間以外に味がブレる理由
コーヒー豆にはどんなに良いものでも『欠点豆』というものが必ず入っていて、それが味や香りにマイナスに作用します。
良い豆であれば生産者がしっかりと選別してくれていて、混入率は少ないんですが、厄介なことに生豆の時点ではどうやっても選別できない種類の欠点豆(クエーカー)があります。クエーカーは焙煎しても色付きが悪いので、色の差で見分けが付きます。ただ、焙煎後に選別をすることは、世界的に見ても例外的と言えるほど少ないのが現状です。(もちろんMUIではやっています。)
入れ方は安定しているのに味がブレる、という場合は欠点豆が原因なことがほとんど。良いコーヒー豆を仕入れて、ちゃんとした仕事をしているコーヒー豆屋さんで購入した場合は、その心配はいりません。
ちなみにクエーカーは美味しくない麦茶や古くなったピーナッツみたいな味や香りがします。選別前のコーヒーを飲んでみたい!という方がたまにいるので飲んでもらうと、皆さん感想が面白いほど同じ。「あの(良くある)苦手なコーヒーの味がする!」と言います。一般的にコーヒーに共通してあると思われている味や香りって、大部分が欠点豆のものなんです。そりゃ飲めないって方がたくさんいるのも分かります。
そういうものが入っていない質の良いコーヒーって、好き嫌いが分かれるような飲み物じゃないし、ほんと美味しいんですよ。
水も大事だけど
水のことをたまに質問されるんですけど、「軟水であればOK」です。
抽出をするときには、溶けている成分量が少なく濃度の低い水、つまり軟水の方が抽出されやすいです。日本は基本的に軟水なので、あまり気にする必要はありません。
もし、ヤカンなどにミネラル分がすぐに白く固まってこびり付く(スケールが付く)、という地域にお住いの方は、一度軟水のミネラルウォーターで試してみてください。
焙煎度合いで濃さを変える
味わいに合った濃さがある
『美味しいコーヒーの入れ方(ペーパードリップ編)』の粉の量と抽出時間の一覧表を見てもらうと、深煎りの方が使う粉の量が多くなっていますよね。これは、その味わいにあった濃さにしてあげることで美味しさをより感じやすくなるから、というのが理由です。
例えば、レモン水がすっごく濃かったら。めちゃくちゃ酸っぱくて飲み辛いですよね。ある程度薄くしたほうが美味しく飲めそうです。カルピスも原液で飲むのが好きという方も中々いないのでは。
逆に、ココアが薄かったら。ぼくはガッカリします。全然美味しく感じられない…。やっぱりココアはある程度しっかり濃くしたほうが美味しさを感じやすいし、ココアらしさ、ってのもちゃんと感じられると思います。
焙煎度合で変わる『味の質感』
コーヒーって焙煎度合いで『味の質感』がものすごく変わるので、それにあった濃さになるように粉の量を調整してあげることがとても大事、と言うか、より美味しさを感じられるようになる方法かな?と考えています。
最終的にはお好みで
ただMUIの提案している濃さは、一つの基準、と言うより目安なので、この分量でやってみて、濃いな…と思ったなら粉を減らして、薄いようなら粉を増やしてみてください。濃さに関しては、好みで調整してもらえればいいと思います。
ドリッパーの選び方
一言でペーパードリップと言っても、色々なメーカーのドリッパーを目にすると思います。たくさん種類があると、どれを選べば良いか分かりませんよね。でも安心してください。基準を知れば簡単です。
基準はひとつ!お湯の抜けの良さ
ドリッパー選びで気にして欲しい基準はひとつ。『お湯の抜けの良さ』。これだけです。
写真を見て貰えば分かりやすいかと思うんですけど、穴の大きいものはお湯の抜けがいいです。ただ、穴が大きくてもドリッパーの内側にある線上の出っ張り(リブ)も重要で、これが無いと抽出中にペーパーがドリッパーに張り付いてしまって、お湯がなかなか抜けて行きません。
・穴が大きい
・リブが縦に長い
このふたつを気にして選んでください。
MUIのイチオシはフレームドリッパー
ちなみにMUIでは『フレームドリッパー』という、文字通りフレームのみのドリッパーを使っています。
見ての通り、これ以上お湯の抜けの良い構造ってないよね、という形状をしていて、実際ものすごくお湯の抜けが良いです。なので、粉がお湯に浸かりにくく、常に抽出の効率が高い状態をキープできるのでちゃんと成分を抽出できます。
抜けの良くないドリッパーの使い方
『お湯の抜けのよくないドリッパー』を使ったら、絶対にちゃんと抽出できないのか、と言うとそんなこともありません。
穴から抜けていく以上の量のお湯を注がなければ、粉からお湯があふれるということはないので、ほんとにちょっとずつちょっとずつ注いであげれば、ちゃんと成分を抽出することができます。
ただ、すごく時間がかかってめんどうなので、お湯の抜けの良いドリッパーを買ってしまったほうが楽だと思います。
ドリッパーの素材
樹脂のドリッパーと陶器のドリッパーどっちが良いの?という疑問も多いようです。
材質による違いはあるかということですね。多少、出来上がりの温度に違いが出るかも知れませんが、材質によって抽出される成分に違いが出るようなことはありません。
重要なのは材質ではなく形状、つまり『お湯の抜けの良さ』ただこの一点です。きっちりと成分を抽出したい場合には、なによりも大事な要素です。
入れたコーヒーが濃かったら
「濃くなっちゃったらどうすればいいですか」って質問が意外と多くて、なぜか「入れたコーヒーにお湯を入れちゃいけない」って思い込みがあったりするようです。もちろんそんなことは全くないので、濃いなぁって思ったらお湯を入れて薄めてくださいね。ムリして飲む必要なんてありません。
コーヒーの温め直し方
どうしても抽出にはある程度の時間がかかるので、入れたコーヒーの温度が少し低い、と言うふうに感じ方もいるかもしれません。
そんな時は温め直してください。沸騰はさせないように、直火なり電子レンジなりで軽く温めてもらう程度なら、良いコーヒー豆であれば劣化が進む心配はないので、問題ありません。
ただ、冷め切ったコーヒーを温めるのは避けてもらった方が良いと思います。
コーヒーメーカーのススメ
『コーヒーメーカーよりも手で入れる方が美味しい』なんて思ってませんか?
そんなこと、全然ないんですよ。人が手で注いでも、機械が注いでも、適切なペースでお湯が注がれるのであれば、違いがあるはずありません。そろばんで計算しようが電卓で計算しようが結果は同じだし、洗濯機があるのに洗濯板を使う必要も無いのと一緒です。『手で入れるのが好き』という方でなければ、コーヒーメーカーはほんとおすすめです。もちろんどんなものでも良いわけではなくて、MUIのイチオシはカリタのET-102。
価格も安いですし、ほぼ完ぺきな時間で抽出してくれるので「とにかく手軽に美味しいコーヒーが飲みたい」って方にぴったりです。ただ、ひとつ注意点があって、付属のドリッパーは使わないでください。お湯の抜けが良くないんです。なので、必ずコーノやフレームドリッパー等の抜けが良いドリッパーに差しかえてくださいね。ドリッパーを変えるだけで最高のコーヒーメーカーに早変わりです。
1杯分の出来上がり量を160ccとしたときに、コーヒーメーカーのタンクに何ccの水を入れればいいか、というのをまとめた表もあるので、欲しい方はコーヒー豆のご注文の際にコメントくださいね。
ドリッパーの選び方がわかったところで、次は「美味しいカフェオーレの作り方・入れ方・レシピ」をご紹介します。